本院が軌道に乗り、患者が増え、院内が手狭になってきた── そんなとき、次の一手として浮かぶのが分院展開です。分院は売上の柱を増やすだけでなく、本院の混雑緩和、勤務医の活躍の場、そして事業承継の受け皿にもなります。一方で、法人格の取得や複数院を回す体制づくりなど、1院目の開業とは違う準備が必要です。このページでは、分院を出すための条件から、立地選定・資金計画・人員計画・法人運営までを、医業経営支援30年超の湯沢会計事務所が解説します。
分院展開の出発点であり絶対条件が、法人格を持っていることです。個人開業の医師は「1人1診療所」が原則で、自分が管理者を務める診療所を複数同時に開設することはできません。複数の診療所を1つの主体で運営するには、医療法人または一般社団法人という法人格が必要になります。
本院とは別に、分院ごとに管理者(常勤医師)を置き、定款変更の認可を受けて開設します。分院展開の最も一般的な形です。ただし定款変更の認可には都道府県のスケジュール(年2回程度)が絡むため、時間的な余裕を見た計画が必要です。
一般社団法人も法人として複数の診療所を開設できます。定款変更の認可が不要でスピーディーな点が強みですが、分院ごとに保健所の開設許可(非営利性審査)が必要です。開業時から多店舗展開を見据える場合に有力な選択肢です。
いずれの法人格でも、分院には常勤の管理者(院長)となる医師を確保することが必須です。法人格と管理医師、この2つが揃って初めて分院の話が前に進みます。まだ個人開業の段階であれば、分院構想とあわせて法人化のタイミングから設計するのが効率的です。
分院の立地で最も堅実なのは、本院の近くに出すことです。とくに、本院が患者で手狭になり、待ち時間が長くなってきたケースでは、近くに2院目を出して患者を分散させるのが理にかなっています。理由は明確です。
ただし、近ければ近いほど良いわけではありません。近すぎると本院と分院で患者を奪い合う(共食い)だけで全体の患者数が増えないこともあります。逆に離れすぎると本院の知名度が届かず、院長の目も行き届きません。理想は、本院の患者の一部が無理なく通える範囲にありながら、両院の商圏が大きくは重ならない距離感です。この見極めには、本院の患者の居住地分布データの分析が役立ちます。
分院の出し方は、診療科の特性や本院の戦略によって変わります。代表的な4つのパターンを紹介します。自院がどの型に当てはまるかを考えることが、立地と役割の設計につながります。
眼科の白内障手術のように、手術機能を持つ本院を中心に据え、その周囲に手術をしない外来専門のクリニックを人工衛星(サテライト)のように複数開院するモデルです。各サテライト院で外来・検査を行い、手術が必要な患者を本院に送り込む仕組みにします。高額な手術設備と執刀体制を本院に集約できるため投資効率がよく、サテライト院は小規模・低コストで展開できます。本院の手術枠を安定的に埋められるのも大きな利点で、眼科・整形外科・美容外科・内視鏡を行う消化器内科などに向いた形です。
訪問診療では、医師が訪問できる距離・時間に限界があるため、一つの拠点でカバーできる地域には範囲があります。そこで、現在のクリニックと隣接する地域に分院を出し、訪問診療のエリアを少しずつ面で広げていくモデルが有効です。隣接地に拠点を増やすことで移動時間の無駄を抑えながら、無理なく診療圏を拡大できます。在宅患者の増加に合わせて段階的に拠点を足していけるため、需要に応じた堅実な展開ができます。高齢化が進む地域の在宅医療ニーズを取り込む、これからの分院展開の有力な形です。
本院の商圏とは重ならない別の診療圏に分院を出し、本院と同じやり方で診療を行うモデルです。本院で確立した診療スタイル・オペレーション・ブランドを、新しい商圏にそのまま移植します。本院との患者の食い合いが起きないため、法人全体の患者数を純粋に上積みできるのが特長です。成功パターンが固まっている医院ほど再現性が高く、3院目・4院目へとスケールさせやすい展開です。ただし本院の目が届きにくくなるため、分院長の確保と、マニュアル・院別損益管理による「質の移植」がより重要になります。
前のセクションで述べた、手狭になった本院の近くに分院を出し、患者を分散するモデルです。需要が証明済みでリスクが低く、最初の分院として最も取り組みやすい形です。
| パターン | 立地の考え方 | 本院との関係 | 向いている診療科・状況 |
|---|---|---|---|
| ① サテライト型 | 本院を囲むように複数配置 | 外来を分院、手術を本院に集約 | 眼科・整形外科・消化器内科など手術機能を持つ科 |
| ② 面展開型 | 隣接地域へ少しずつ拡大 | 訪問エリアを面で分担 | 訪問診療・在宅医療 |
| ③ 同型展開型 | 本院と別の診療圏 | 同じやり方を移植・患者は食い合わない | 成功パターンが固まった医院の多店舗化 |
| ④ 患者分散型 | 本院の近く | 本院の混雑を緩和 | 手狭になった本院・最初の分院 |
分院展開の資金調達は、初めての開業よりも有利に進みます。理由は、本院という「実績のある事業」が後ろ盾になるからです。新規開業の融資審査が事業計画という「予測」で判断されるのに対し、分院の融資は本院の決算書という「実績」で判断されます。本院がしっかり利益を出していれば、その返済力は決算書に表れており、メインバンク(本院の取引銀行)からの融資が格段に受けやすくなります。
本院の入金口座・給与振込・日常の資金のやり取りを通じて、メインバンクはすでに法人の経営状況を熟知しています。「よく知っている取引先の、儲かっている本院の2号店」への融資は、銀行にとってもリスクの低い案件です。日頃から試算表の共有などで良好な関係を築いていれば、話はさらにスムーズに進みます。
分院の立ち上げで最も効くのが、本院の経験あるスタッフの一部を分院に配置することです。本院のやり方・受付の流れ・院長の方針を体で覚えたスタッフが分院にいるだけで、開院初日から運営が安定します。マニュアルを読むより、できる人が隣にいる方がはるかに早く、立ち上げ期の混乱を最小化できます。
分院では新規採用も行いますが、本院で実績のあるスタッフが教育役(プリセプター)になれるため、新人教育もスムーズです。ゼロから開業して全員が新人という状況と違い、「教える人がいる」状態で分院を立ち上げられるのは大きな強みです。本院と分院でスタッフが行き来できる距離なら、繁忙時の応援や教育のための一時異動も柔軟に組めます。
1院のうちは院長がすべてを見られますが、分院ができると院長は2つの現場を同時には診られません。ここで必要になるのが、現場をスタッフ・分院長に任せ、院長が経営判断に軸足を移すことです。院長一人のプレーヤーから、組織のマネージャーへ── この転換ができるかどうかが、分院展開の成否を分けます。
2院になると、どちらの院がどれだけ稼ぎ、どこにコストがかかっているのかを院別に把握する必要があります。法人全体の決算だけでは、不調な院の問題が好調な院に隠れてしまいます。院別の損益管理(部門別会計)を導入し、月次で各院の数字を追える体制を整えます。クラウド会計と連携すれば、院別の収支をほぼリアルタイムで把握できます(医療DXのページ参照)。
院長の目が届かない分院でも本院と同じ医療・接遇を提供するには、業務マニュアル・各種規程の整備が欠かせません。1院のときは「見て覚える・口で伝える」で回っていたものを、明文化して分院に移植します。これは将来さらに院を増やすときの土台にもなります。
本院が安定して利益を出しているか、混雑による機会損失が出ていないかを確認。分院を出す「体力」と「必要性」の両方があるかを見極めます。
すでに法人ならOK。個人開業なら、分院構想とあわせて医療法人化または一般社団法人化のタイミングを設計します。
本院の患者の居住地分布から、患者を分散でき、かつ共食いしない立地を選びます。物件の選定と並行して進めます。
本院の決算書を背景に、法人全体の資金繰りで返済計画を作り、メインバンクへ相談します。
本院からの配置と新規採用を組み合わせ、何より分院の管理者(院長)を確保します。
定款変更認可・開設許可・保険医療機関指定の手続きを進めつつ、院別損益管理とマニュアルを整え、開院に備えます。
湯沢会計事務所は医業経営支援30年超。分院展開にあたって、本院の収益力の診断、法人格の選択(医療法人・一般社団法人)、本院データを用いた立地検討、法人全体の資金繰りに基づく融資計画とメインバンク交渉の支援、院別損益管理の導入、人員・給与設計、開設手続きまでを一貫してサポートします。「そろそろ2院目を考えたい」という構想段階からのご相談を歓迎します。初回相談は無料です。
分院展開の無料相談を申し込む