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2院目をお考えの院長先生へ 最終更新:2026年6月

クリニックの分院展開
資金計画・人員計画・法人運営

本院が軌道に乗り、患者が増え、院内が手狭になってきた── そんなとき、次の一手として浮かぶのが分院展開です。分院は売上の柱を増やすだけでなく、本院の混雑緩和、勤務医の活躍の場、そして事業承継の受け皿にもなります。一方で、法人格の取得や複数院を回す体制づくりなど、1院目の開業とは違う準備が必要です。このページでは、分院を出すための条件から、立地選定・資金計画・人員計画・法人運営までを、医業経営支援30年超の湯沢会計事務所が解説します。

分院展開の大前提
法人格が必要
医療法人または一般社団法人であること
王道の立地
本院の近く
手狭になった本院の患者を分散
成功の鍵
本院の実績を活かす
融資も人材も「本院の信用」が土台
条件

分院を出すための条件 ── まず法人格が必要

分院展開の出発点であり絶対条件が、法人格を持っていることです。個人開業の医師は「1人1診療所」が原則で、自分が管理者を務める診療所を複数同時に開設することはできません。複数の診療所を1つの主体で運営するには、医療法人または一般社団法人という法人格が必要になります。

医療法人で分院展開

本院とは別に、分院ごとに管理者(常勤医師)を置き、定款変更の認可を受けて開設します。分院展開の最も一般的な形です。ただし定款変更の認可には都道府県のスケジュール(年2回程度)が絡むため、時間的な余裕を見た計画が必要です。

一般社団法人で分院展開

一般社団法人も法人として複数の診療所を開設できます。定款変更の認可が不要でスピーディーな点が強みですが、分院ごとに保健所の開設許可(非営利性審査)が必要です。開業時から多店舗展開を見据える場合に有力な選択肢です。

いずれの法人格でも、分院には常勤の管理者(院長)となる医師を確保することが必須です。法人格と管理医師、この2つが揃って初めて分院の話が前に進みます。まだ個人開業の段階であれば、分院構想とあわせて法人化のタイミングから設計するのが効率的です。

あわせて読む:どちらの法人格を選ぶかは医療法人とその他法人の比較一般社団法人での開業のページもご覧ください。一般社団法人は開業時からの法人化ができるため、最初から分院展開を見据えた設計に向いています。
立地選定

分院を出す場所の選び方 ── まずは「本院の近く」

王道は本院の近くへの出店

分院の立地で最も堅実なのは、本院の近くに出すことです。とくに、本院が患者で手狭になり、待ち時間が長くなってきたケースでは、近くに2院目を出して患者を分散させるのが理にかなっています。理由は明確です。

  • 需要がすでに証明されている:本院に患者が集まっているという事実が、その商圏に需要があることの何よりの証拠です。ゼロから診療圏を読む新規開業より、リスクが格段に低くなります。
  • 本院の知名度・信頼をそのまま活かせる:「あの○○クリニックの2院目」という認知が、開院初日から効きます。広告費をかけずに患者が来る土台があります。
  • 院長・スタッフが行き来できる:距離が近ければ、院長が両院を見て回ることも、スタッフの応援を出すことも容易です。立ち上げ期の運営が安定します。
  • 本院の混雑緩和という明確な目的がある:「手狭な本院の患者を分散する」という目的がはっきりしているため、分院の役割と収支の見通しが立てやすくなります。

近すぎ・離れすぎの見極め

ただし、近ければ近いほど良いわけではありません。近すぎると本院と分院で患者を奪い合う(共食い)だけで全体の患者数が増えないこともあります。逆に離れすぎると本院の知名度が届かず、院長の目も行き届きません。理想は、本院の患者の一部が無理なく通える範囲にありながら、両院の商圏が大きくは重ならない距離感です。この見極めには、本院の患者の居住地分布データの分析が役立ちます。

分院ならではの立地の発想:本院の患者カルテには「どこから通っているか」という貴重なデータが詰まっています。本院の患者が多く住むエリアのうち、本院から少し離れた場所に分院を出せば、その地域の患者は近い分院に移り、本院は手狭が解消され、両院とも適正な患者数に落ち着きます。新規開業の診療圏調査にはない、分院展開だけの強力な武器です。
展開モデル

診療科・診療スタイル別 ── 4つの分院展開パターン

分院の出し方は、診療科の特性や本院の戦略によって変わります。代表的な4つのパターンを紹介します。自院がどの型に当てはまるかを考えることが、立地と役割の設計につながります。

① サテライト型 ── 手術を行うクリニック(眼科など)

眼科の白内障手術のように、手術機能を持つ本院を中心に据え、その周囲に手術をしない外来専門のクリニックを人工衛星(サテライト)のように複数開院するモデルです。各サテライト院で外来・検査を行い、手術が必要な患者を本院に送り込む仕組みにします。高額な手術設備と執刀体制を本院に集約できるため投資効率がよく、サテライト院は小規模・低コストで展開できます。本院の手術枠を安定的に埋められるのも大きな利点で、眼科・整形外科・美容外科・内視鏡を行う消化器内科などに向いた形です。

② 面展開型 ── 訪問診療のクリニック

訪問診療では、医師が訪問できる距離・時間に限界があるため、一つの拠点でカバーできる地域には範囲があります。そこで、現在のクリニックと隣接する地域に分院を出し、訪問診療のエリアを少しずつ面で広げていくモデルが有効です。隣接地に拠点を増やすことで移動時間の無駄を抑えながら、無理なく診療圏を拡大できます。在宅患者の増加に合わせて段階的に拠点を足していけるため、需要に応じた堅実な展開ができます。高齢化が進む地域の在宅医療ニーズを取り込む、これからの分院展開の有力な形です。

③ 同型展開型 ── 本院と別の診療圏で開業

本院の商圏とは重ならない別の診療圏に分院を出し、本院と同じやり方で診療を行うモデルです。本院で確立した診療スタイル・オペレーション・ブランドを、新しい商圏にそのまま移植します。本院との患者の食い合いが起きないため、法人全体の患者数を純粋に上積みできるのが特長です。成功パターンが固まっている医院ほど再現性が高く、3院目・4院目へとスケールさせやすい展開です。ただし本院の目が届きにくくなるため、分院長の確保と、マニュアル・院別損益管理による「質の移植」がより重要になります。

④ 患者分散型 ── 本院の近くに出す(混雑緩和)

前のセクションで述べた、手狭になった本院の近くに分院を出し、患者を分散するモデルです。需要が証明済みでリスクが低く、最初の分院として最も取り組みやすい形です。

パターン立地の考え方本院との関係向いている診療科・状況
① サテライト型本院を囲むように複数配置外来を分院、手術を本院に集約眼科・整形外科・消化器内科など手術機能を持つ科
② 面展開型隣接地域へ少しずつ拡大訪問エリアを面で分担訪問診療・在宅医療
③ 同型展開型本院と別の診療圏同じやり方を移植・患者は食い合わない成功パターンが固まった医院の多店舗化
④ 患者分散型本院の近く本院の混雑を緩和手狭になった本院・最初の分院
資金計画

資金計画 ── 本院の利益が、分院の融資を呼ぶ

本院が黒字なら、融資は格段に受けやすい

分院展開の資金調達は、初めての開業よりも有利に進みます。理由は、本院という「実績のある事業」が後ろ盾になるからです。新規開業の融資審査が事業計画という「予測」で判断されるのに対し、分院の融資は本院の決算書という「実績」で判断されます。本院がしっかり利益を出していれば、その返済力は決算書に表れており、メインバンク(本院の取引銀行)からの融資が格段に受けやすくなります

本院の入金口座・給与振込・日常の資金のやり取りを通じて、メインバンクはすでに法人の経営状況を熟知しています。「よく知っている取引先の、儲かっている本院の2号店」への融資は、銀行にとってもリスクの低い案件です。日頃から試算表の共有などで良好な関係を築いていれば、話はさらにスムーズに進みます。

分院の資金計画で押さえるべき点

  • 本院の利益で分院の立ち上げ赤字を支える:分院も開院当初は患者数が伸びるまで赤字になり得ます。本院の利益という体力があるうちに出すのが鉄則で、本院が不調なときの分院展開は避けるべきです。
  • 法人全体の資金繰りで見る:分院の収支だけでなく、本院+分院を合算した法人全体の資金繰り表で、返済とのバランスを確認します。
  • 調達手段を組み合わせる:内装・設備の大型資金はメインバンク、医療機器はリース、というように調達先を役割分担します(詳しくは融資の通し方のページへ)。
注意:分院は「本院が儲かっているから出す」ものであって、「本院が苦しいから挽回のために出す」ものではありません。本院の経営が傾いている状態での分院展開は、2院とも共倒れになるリスクが高く、最も避けるべきパターンです。分院を検討する前に、まず本院の収益基盤が固いことを確認してください。
人員計画

人員計画 ── 本院スタッフを軸に、新人を育てる

本院のスタッフの一部を分院へ

分院の立ち上げで最も効くのが、本院の経験あるスタッフの一部を分院に配置することです。本院のやり方・受付の流れ・院長の方針を体で覚えたスタッフが分院にいるだけで、開院初日から運営が安定します。マニュアルを読むより、できる人が隣にいる方がはるかに早く、立ち上げ期の混乱を最小化できます。

新しく雇うスタッフの教育もしやすい

分院では新規採用も行いますが、本院で実績のあるスタッフが教育役(プリセプター)になれるため、新人教育もスムーズです。ゼロから開業して全員が新人という状況と違い、「教える人がいる」状態で分院を立ち上げられるのは大きな強みです。本院と分院でスタッフが行き来できる距離なら、繁忙時の応援や教育のための一時異動も柔軟に組めます。

人員配置の組み方

  • 核になるベテランを1〜2名、本院から分院へ:受付・看護のキーパーソンを分院に移し、運営の軸にします。
  • 本院の穴は新規採用で埋める:分院に出した分の本院の人員は、新規採用で補充します。結果として、組織全体が一段成長します。
  • 「分院に行きたい人」を尊重する:異動は本人の希望と生活(通勤・家庭)に配慮して決めます。納得感のない異動は退職の引き金になります。
  • 分院の管理者(院長)選び:勤務医を分院長として迎えるか、本院の非常勤医を充てるか。分院長の確保が人員計画の最重要ポイントです。
あわせて読む:採用媒体の費用・面接・給与設計・退職防止の実務はスタッフ採用・給与設計・退職防止のページで詳しく解説しています。分院展開は採用力が問われる局面でもあります。
法人運営

法人運営 ── 2院を1つの法人で回す体制づくり

院長が「現場」から「経営」へ移る

1院のうちは院長がすべてを見られますが、分院ができると院長は2つの現場を同時には診られません。ここで必要になるのが、現場をスタッフ・分院長に任せ、院長が経営判断に軸足を移すことです。院長一人のプレーヤーから、組織のマネージャーへ── この転換ができるかどうかが、分院展開の成否を分けます。

院ごとの数字を「見える化」する

2院になると、どちらの院がどれだけ稼ぎ、どこにコストがかかっているのかを院別に把握する必要があります。法人全体の決算だけでは、不調な院の問題が好調な院に隠れてしまいます。院別の損益管理(部門別会計)を導入し、月次で各院の数字を追える体制を整えます。クラウド会計と連携すれば、院別の収支をほぼリアルタイムで把握できます(医療DXのページ参照)。

ルールとマニュアルで「本院の質」を分院へ移す

院長の目が届かない分院でも本院と同じ医療・接遇を提供するには、業務マニュアル・各種規程の整備が欠かせません。1院のときは「見て覚える・口で伝える」で回っていたものを、明文化して分院に移植します。これは将来さらに院を増やすときの土台にもなります。

法人運営上の手続きを忘れずに

  • 医療法人:分院開設は定款変更の認可が必要。毎年の事業報告・経営情報報告・関係事業者取引報告も法人全体で行います。
  • 一般社団法人:分院ごとの開設許可(非営利性審査)が必要。令和9年からは医療法人と同様の事業等報告も始まります。
  • 共通:役員報酬・専従者給与の設計、社会保険、就業規則の整備を、複数院体制に合わせて見直します。
進め方

分院展開の検討ステップ

1

本院の健全性チェック

本院が安定して利益を出しているか、混雑による機会損失が出ていないかを確認。分院を出す「体力」と「必要性」の両方があるかを見極めます。

2

法人格の確認・取得

すでに法人ならOK。個人開業なら、分院構想とあわせて医療法人化または一般社団法人化のタイミングを設計します。

3

立地選定(本院のデータ活用)

本院の患者の居住地分布から、患者を分散でき、かつ共食いしない立地を選びます。物件の選定と並行して進めます。

4

資金計画とメインバンク相談

本院の決算書を背景に、法人全体の資金繰りで返済計画を作り、メインバンクへ相談します。

5

人員計画と分院長の確保

本院からの配置と新規採用を組み合わせ、何より分院の管理者(院長)を確保します。

6

開設手続きと運営体制の構築

定款変更認可・開設許可・保険医療機関指定の手続きを進めつつ、院別損益管理とマニュアルを整え、開院に備えます。

2院目の構想、「数字」と「体制」の両面から設計します

湯沢会計事務所は医業経営支援30年超。分院展開にあたって、本院の収益力の診断、法人格の選択(医療法人・一般社団法人)、本院データを用いた立地検討、法人全体の資金繰りに基づく融資計画とメインバンク交渉の支援、院別損益管理の導入、人員・給与設計、開設手続きまでを一貫してサポートします。「そろそろ2院目を考えたい」という構想段階からのご相談を歓迎します。初回相談は無料です。

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