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院長先生とそのご家族へ 最終更新:2026年6月

院長の相続対策
── 争族・相続税・納税資金の3つの観点

「相続対策=相続税を減らすこと」と思われがちですが、それは3分の1にすぎません。相続対策には、①家族が争わないための「争族対策」、②税金を減らすための「相続税対策」、③払うお金を用意する「納税資金対策」という3つの観点があり、この3つは時に互いに矛盾します。例えば節税を優先しすぎると、納税資金が足りなくなったり、特定の相続人に資産が偏って争いを生んだりします。3つをバランスよく設計してこそ、本当の相続対策です。医業経営支援30年超の湯沢会計事務所が、クリニック院長のための相続対策を解説します。

観点 1
争族対策
家族が遺産分割で争わないために
観点 2
相続税対策
相続税をできるだけ少なくするために
観点 3
納税資金対策
相続税を期限までに払えるように
全体像

相続対策は「3つの観点」で考える

どれか1つだけでは不十分です。3つを同時に、かつバランスよく設計することが大切です。

観点 1

争族対策

相続人の間で遺産分割をめぐる争いが起きないための対策。遺言書・生前贈与・家族信託で、「誰に何を渡すか」を生前に決めておきます。

観点 2

相続税対策

相続税をできるだけ少なくするための対策。生前贈与・小規模宅地等の特例・各種の贈与特例・養子縁組・資産の組み換えを活用します。

観点 3

納税資金対策

相続税を申告期限(10ヶ月)までに払えるようにする対策。生命保険・資産のバランス・持分あり医療法人の自社株対策で、納税原資を準備します。

3つは時に矛盾します:相続税を減らそうと不動産にお金を換えると、いざ納税のときに現金が足りなくなります。1人に事業用資産を集めると争族の火種になります。だからこそ、節税・分割・納税をひとつの設計図の上で同時に最適化する必要があります。
観点 1

争族対策 ── 家族が争わないために

「うちは仲がいいから大丈夫」というご家庭ほど、対策をしていないことが多いものです。財産があるところには、争いの種があります。

① 遺言書の作成 ── 争族対策の柱

遺言書は「誰に何を相続させるか」を生前に明確にし、遺産分割の争いを未然に防ぐ最も基本的で強力な手段です。遺言には3つの方式があります。

1. 自筆証書遺言

本人が全文(財産目録を除く)を自筆で書く方式。手軽で費用がかからない反面、形式不備で無効になるリスクや、紛失・改ざんの心配があります。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば、保管と形式チェックの面で安心感が高まります。

2. 公正証書遺言 ── 最も確実

公証人が関与して作成する方式で、形式不備で無効になる心配がほぼなく、原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんのリスクもありません。クリニックの院長のように財産が大きく、事業用資産が絡む場合は、この公正証書遺言が最も安心です。作成にあたっては、司法書士・弁護士などの専門家がサポートし、信託銀行等の遺言信託サービスを利用する方法もあります。

3. 秘密証書遺言

遺言の内容を秘密にしたまま、その存在だけを公証人に証明してもらう方式。利用は多くありませんが、内容を誰にも知られたくない場合の選択肢です。

② 生前贈与 ── 「渡したい人に、渡したいものを」

生前のうちに財産を渡しておけば、その分は遺産分割の対象から外れ、争いの芽を減らせます。後述のとおり相続税対策にもなりますが、争族対策としても、「この資産はこの子に」という意思を生前に形にできる意義があります。ただし、特定の相続人だけに偏った贈与は、かえって不公平感や遺留分の争いを生むため、全体のバランスを見て行うことが重要です。

③ 家族信託 ── 認知症対策も兼ねる新しい選択肢

家族信託は、財産の管理・承継を信頼できる家族に託す仕組みです。院長が認知症などで判断能力を失っても、託された家族が財産管理や事業用資産の運用を続けられるため、「認知症で資産が凍結する」リスクに備えられます。さらに、二次相続(配偶者の次の代)まで見据えた承継先の指定もできるため、遺言ではカバーしきれない長期の承継設計が可能です。

争族対策の本質:争族対策とは「誰に何を、なぜ渡すのか」という院長の意思を、法的に有効な形で残しておくことです。元気なうちに家族と対話し、その結論を公正証書遺言などで形にしておく── これが、残された家族を守る最大の贈り物になります。
観点 2

相続税対策 ── 税金をできるだけ少なくする

相続税は、課税対象となる財産(相続財産)を減らすか、評価額を下げるかで軽減できます。代表的な手段を組み合わせます。

まず「相続財産」を把握する

相続税の対策は、自分の相続財産がいくらあり、相続税がいくらかかるのかを知ることから始まります。クリニック院長の場合、自宅・医院の土地建物・預貯金・有価証券・生命保険・(持分あり医療法人なら)出資持分などが対象です。事業用資産は評価額が大きくなりやすく、相続税を押し上げる要因になります。まずは現状の相続財産と概算税額を把握し、そこから対策を設計します。

① 生前贈与 ── 計画的に財産を移す

生きているうちに財産を次世代へ移し、相続財産そのものを減らす方法です。年間110万円までの暦年贈与を計画的に続ける方法や、まとまった額を移せる相続時精算課税制度(2024年以降は年110万円の基礎控除が新設)などを、目的に応じて使い分けます。早く始めるほど効果が大きくなります。

② 小規模宅地等の特例の最大利用

相続税対策の最大の切り札のひとつが、小規模宅地等の特例です。一定の要件を満たす自宅の土地や事業用の土地について、評価額を最大80%(または50%)減額できます。クリニックの敷地や院長の自宅は評価額が大きいため、この特例を最大限に活用できるかどうかで相続税額が大きく変わります。ただし適用要件(同居・事業継続・保有継続など)が細かいため、要件を満たす形に生前から整えておくことが重要です。

③ 贈与税の特例の利用

通常の贈与に加え、目的別の非課税特例があります。住宅取得等資金の贈与結婚・子育て資金の一括贈与、配偶者への居住用不動産の贈与(おしどり贈与)など、お子さま・お孫さんへの資金援助を、非課税枠を使いながら相続財産の圧縮につなげられます。

④ 養子縁組 ── 基礎控除と非課税枠を増やす

相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、生命保険・死亡退職金の非課税枠(各500万円×法定相続人の数)は、法定相続人の数で決まります。孫やお子さまの配偶者を養子にすることで法定相続人を増やし、これらの枠を拡大できます(相続税計算上の養子の数には制限あり)。ただし、相続人が増えることでかえって争族の火種になることもあるため、争族対策とのバランスで慎重に判断します。

⑤ 資産の組み換え ── 評価額を下げる

同じ価値の財産でも、持ち方によって相続税評価額は変わります。例えば、現金より不動産(とくに賃貸用)の方が相続税評価額は低くなる傾向があり、現金を収益不動産に組み換えることで評価額を圧縮できます。ただし、不動産は分けにくく売りにくいため、やりすぎると争族・納税資金の両面でリスクになります。あくまで全体のバランスの中で行う対策です。

節税の落とし穴:相続税を減らすことだけを追求すると、「分けられない不動産ばかりで争いになる」「納税の現金がない」という事態を招きます。相続税対策は、次の納税資金対策・前の争族対策と必ずセットで考えてください。
観点 3

納税資金対策 ── 期限までに払えるように

相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に現金で一括納付が原則です。「資産はあるのに現金がなくて払えない」を防ぐのが納税資金対策です。

① 生命保険への加入 ── 納税資金の王道

生命保険は、納税資金対策の最も確実で使いやすい手段です。理由は3つあります。第一に、ご本人が亡くなって相続が発生したそのタイミングで、確実に現金が支払われること。相続が起きたその時に、納税原資となるまとまった現金が手に入ります。第二に、保険金は受取人固有の財産のため、遺産分割協議を待たずに受け取れ、すぐ納税に充てられること。第三に、「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠があり、相続税対策も兼ねられることです。後継者を受取人にしておけば、他の相続人へ渡す代償分割の資金にもなり、争族対策にもなります。納税資金・節税・争族対策の3つを一度に担える、相続対策の万能選手です。

② 不動産と金融資産のバランス ── 「換金性」を確保する

クリニックの院長は、財産が自宅・医院の不動産に偏りがちです。しかし不動産は、相続税の納税にはそのまま使えません。納税は現金が必要だからです。相続財産に占める不動産の割合が高すぎると、「相続税は高額なのに、払う現金がない」という最悪の事態に陥り、最終的に事業用資産を売って納税する羽目になりかねません。

これを防ぐには、不動産(換金しにくい資産)と、預貯金・上場株式などの金融資産(換金しやすい資産)のバランスを意識することが重要です。相続税の概算額を把握したうえで、少なくとも納税額に見合うだけの金融資産(または生命保険)を確保しておく。これが納税資金対策の基本です。相続税対策で現金を不動産に換えるときも、納税資金を食いつぶさない範囲にとどめる、というブレーキが必要です。

③ 自社株対策(持分あり医療法人)── 最大の納税リスク

2007年3月以前に設立された「持分あり」の医療法人を承継する場合、納税資金対策の最重要テーマが出資持分(自社株に相当)の問題です。医療法人は利益を配当できないため利益が法人内に積み上がり、出資持分の評価額が年々膨らみます。その持分を相続すると多額の相続税がかかる一方、持分は市場で売れず、配当もないため、納税の現金を生み出しません。「評価額は何千万円・何億円なのに、それで納税はできない」── これが持分あり医療法人の構造的な問題です。

持分あり医療法人の出口:認定医療法人制度(2029年12月31日まで)

この出資持分の納税問題を抜本的に解消する制度が、「持分なし医療法人」への移行を支援する認定医療法人制度です。認定を受けて持分なし法人へ移行すれば、出資持分にかかる相続税・贈与税の負担の問題を解消できます。制度の期限は2029年(令和11年)12月31日までとされ、移行には数年単位の計画が必要です。持分あり法人の院長にとって、相続対策の中でも最優先で検討すべきテーマです(詳しくは医療法人化のページもご覧ください)。

納税が間に合わない場合の最終手段

どうしても現金で一括納付できない場合、相続税には延納(分割払い)や、一定の財産で納める物納の制度があります。ただし、いずれも要件が厳しく、利子税の負担や手続きの煩雑さがあるため、あくまで最終手段です。本来は、生前の納税資金対策でこうした事態を避けることが望まれます。

まとめ

3つの観点を「ひとつの設計図」に

ここまで見てきたように、相続対策の3つの観点は独立していません。生命保険は納税資金・節税・争族対策の3つすべてに効き、生前贈与は争族対策と相続税対策にまたがり、資産の組み換えは相続税対策と納税資金対策で逆向きに働きます。だからこそ、3つを別々に考えるのではなく、ひとつの設計図の上でバランスを取ることが不可欠です。

主な対策争族対策相続税対策納税資金対策
公正証書遺言
生前贈与
家族信託
小規模宅地等の特例
養子縁組
生命保険
資産のバランス調整
認定医療法人(持分対策)

◎=効果大 ○=効果あり △=場合により逆効果 −=直接の関係は小さい

相続対策は、相続税・民法(遺言・遺留分)・医療法・生命保険・不動産が複雑に絡む総合的なテーマです。数年単位で計画的に進める必要があり、税理士・司法書士・弁護士が連携して取り組むのが効果的です。なお、退職金やM&Aを含めた事業承継の視点は相続・退職金・事業承継のページもあわせてご覧ください。

「争族・相続税・納税資金」を一枚の設計図にまとめませんか

湯沢会計事務所は医業経営支援30年超。相続財産と概算税額の把握から、公正証書遺言・家族信託による争族対策、小規模宅地等の特例・生前贈与・養子縁組による相続税対策、生命保険・資産バランス・認定医療法人制度による納税資金対策まで、3つの観点を一体で設計します。司法書士・弁護士との連携体制も整えています。「まだ元気だから」と思ううちに始めるのが、最良の相続対策です。初回相談は無料です。

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