← 前のメニューに戻る
クリニック・歯科医院の院長先生へ 最終更新:2026年6月

専従者給与・院長夫人・家族役員の給与は
いくらが妥当か ── 節税と税務調査対策

院長夫人やご家族への給与は、クリニックで使える最も身近で効果の大きい所得分散(節税)の手段です。同時に、税務調査で最も狙われやすい論点でもあります。ポイントは、個人開業(専従者給与)と医療法人(役員報酬)で認められる水準の考え方がまったく違うこと、そして「実際に仕事をしている実態」と「それを示す書面」がすべての土台になることです。このページでは、資格の有無別・個人/法人別の妥当額、節税効果の実際、高額役員報酬の否認リスクとその最大の対策(税理士法33条の2の書面添付)までを解説します。

個人開業(専従者給与)・無資格
年間 500万円程度
毎年の昇給で勤続年数に応じて上乗せ可能
医療法人・家族役員
月給 100万円以上も可能
役員として実際に仕事をしていることが条件
高額否認への最大の対策
税理士法33条の2の書面添付
書面に役員の仕事内容を記載して申告
基本ルール

個人開業と医療法人で、ルールが違う

個人開業:青色事業専従者給与

個人開業のクリニックで生計を一にする家族に給与を払うには、青色申告+「青色事業専従者給与に関する届出書」の期限内提出が前提です。要件は次の4つに集約されます。

  • 専従していること:その年の6ヶ月超、クリニックの仕事に「専ら」従事していること。他にパート勤めをしている、学生であるといった場合は原則として認められません。
  • 届出額の範囲内であること:実際の支給額は届出書に記載した金額・支給時期の範囲内に限られます。昇給の予定があるなら届出は余裕を持った金額で出しておきます。
  • 労務の対価として相当であること:仕事の内容・従事時間に見合った金額であること。ここが税務調査の主戦場です。
  • 配偶者控除等との二者択一:専従者給与を1円でも支給すると、その家族について配偶者控除・扶養控除は使えません。少額払うくらいなら控除を使う方が有利な場合もあり、損益分岐の試算が必要です。

医療法人:家族役員への役員報酬

医療法人では、配偶者を理事にして役員報酬を支払う形になります。専従者給与のような「専従」要件はありませんが、代わりに定期同額給与(毎月同額・改定は原則期首3ヶ月以内)のルールと、過大役員報酬の否認(不相当に高額な部分は損金不算入)のリスクがあります。職務内容(理事としての経営参画+実務)に見合う金額であることの説明責任は、専従者給与と同じです。役員報酬全体の設計は「役員報酬の設計」のページもご覧ください。

金額の目安

個人・法人/資格の有無別 ── いくらが妥当か

個人開業(専従者給与)と医療法人(役員報酬)では、認められる水準の考え方が異なります。従業員としての給与は職種相場が物差しになりますが、法人の役員報酬は経営責任への対価を含むため、従業員相場を超える水準があり得ます。当事務所の実務経験に基づく目安は次のとおりです。

区分類型スタート時の目安考え方
個人(専従者給与)資格なし年間500万円程度受付・経理・労務・スタッフ管理等をフルタイムで担う前提。毎年昇給していけば、勤続年数に応じて上乗せが可能
個人(専従者給与)資格あり(看護師・歯科衛生士等で勤務)有資格者の相場+100〜200万円程度資格職としての地域相場(看護師なら年310〜380万円程度)に、管理業務分として100〜200万円を上乗せした水準でスタート
医療法人(役員報酬)資格なし月給100万円以上も可能役員として実際に仕事をしていれば、資格がなくても月給100万円以上の報酬も可能。経営参画(理事会・資金・労務・運営管理)の実態が前提
医療法人(役員報酬)資格あり上記+資格分の加算が可能役員報酬に加えて、看護師・歯科衛生士等として現場業務を担う分の資格分の加算が可能

個人(専従者給与)の考え方

無資格でも、受付・会計・経理・労務・スタッフ管理といった医院運営の中核業務をフルタイムで担っていれば、年間500万円程度からのスタートが実務上の目安です。そして専従者給与も他のスタッフと同様、毎年の昇給を積み重ねることで、勤続年数に応じた上乗せができます。開業時に低めに設定したまま何年も据え置くのではなく、昇給のルールに乗せて育てていくのが正しい運用です。資格を持ち実際にその資格で勤務している場合は、有資格者の相場に100〜200万円程度を上乗せした水準でスタートできます。資格職の業務と管理業務の両方を担っている実態が、その上乗せの根拠になります。

医療法人(役員報酬)の考え方

法人の役員報酬は、従業員の給与とは性格が異なります。役員は経営に対する責任(理事としての意思決定、資金繰り、労務、運営管理)を負っており、その対価は従業員相場では測れません。したがって役員として実際に仕事をしていれば、資格がなくても月給100万円以上の役員報酬も可能です。さらに看護師等の資格があり現場業務も担っている場合は、資格分の加算ができます。ただし「役員だから当然に高額でよい」わけではなく、後述のとおり実際に仕事をしている実態と、それを示す記録・書面がすべての前提です。

金額を決める3ステップ

①担当業務(役員としての経営業務・資格職としての現場業務)を書き出す(業務分掌表)→②区分ごとに上の目安を当てはめる→③毎年の昇給・改定を、評価と手続(個人は届出の範囲内、法人は期首の定期同額改定)に乗せて運用する。この順番で決めた給与・報酬は、調査官への説明がそのまま成立します。

節税効果

所得分散の節税効果 ── 効く理由と、やりすぎの逆効果

なぜ効くのか

所得税は超過累進税率のため、院長一人に所得が集中するほど高い税率で課税されます。家族への給与で所得を分けると、①院長側は高い限界税率(住民税込みで最大55%水準)の部分が削られ、②家族側は低い税率+給与所得控除という新たな控除枠で課税されるため、世帯トータルの税負担が下がります。

例えば院長の課税所得2,000万円のうち400万円を妥当な専従者給与として配偶者に分散すると、世帯で年間数十万円〜100万円規模の税負担差が生じるのが典型的な水準感です(社会保険・住民税の増加分を差し引いた正味の効果は個別試算が必要です)。

やりすぎの逆効果

  • 過大部分の否認:労務の対価を超える部分は必要経費(損金)になりません。否認されると院長側の所得が増えて追徴+加算税・延滞税。一方で家族側で払った税金がそのまま戻るわけではなく、世帯では二重に損をします。
  • 社会保険・住民税の壁:給与を上げれば家族側の社会保険料・住民税も増えます。「税率差」だけでなく正味の手取り差で判断します。
  • 利益調整への流用は危険:「今年は利益が出たから12月に専従者賞与を増額」といった恣意的な支給は、調査で真っ先に突かれます。専従者給与は労務の対価であって、利益の調整弁ではありません
当事務所の視点:家族給与は「上限ギリギリを攻める」より、「確実に守れる金額を毎年同じルールで払い続ける」方が、生涯トータルでは得です。攻めるべきは金額ではなく、退職金(専従者にも退職金の論点があります)・小規模企業共済・法人化のタイミングなど、制度の組み合わせの方です。
税務調査対策

税務調査で見られるポイントと、整えるべき資料

調査官はここを見る

  • 勤務の実態:出勤簿・タイムカードはあるか。診療時間中に院内にいるか。スタッフへの聞き取りで「奥様は普段いらっしゃいますか?」と確認されることもあります。
  • 業務内容の具体性:「経理をしている」ではなく、何を・どの頻度で・どこまでやっているか。記帳・振込・給与計算・シフト作成など、具体的に答えられるか。
  • 金額の均衡:同じ仕事をしている他のスタッフ、あるいは世間相場と比べて突出していないか。スタッフより高い場合、その差を業務の差で説明できるか。
  • 支払いの実在性:本人名義の口座に毎月振り込まれているか。家計と一体の口座への振替や、帳簿上だけの未払計上は危険信号です。
  • 専従性(個人の場合):他にパート収入はないか、届出書の金額・時期と実際の支給が一致しているか。
  • 手続(法人の場合):役員報酬の決定に係る議事録はあるか、定期同額になっているか、期中の増額はないか。

否認されるとどうなるか ── 高額役員報酬の「二重課税」問題

役員報酬が不相当に高額と判断されると、過大部分は法人の経費(損金)になりません。一方で、報酬を受け取った役員個人の側では給与としての所得税課税はそのまま残ります。つまり、法人で経費にならないのに、個人では課税される── 同じお金に法人税と所得税が二重にかかる、いわゆる二重課税の状態に陥ります。これに過少申告加算税・延滞税が複数年分上乗せされるため、高額役員報酬の否認はクリニックの税務リスクの中でも特にダメージが大きいのです。

税務署は「地域の平均値」で否認してくる

否認の典型的な手法が、同業類似法人比準です。税務署は、その地域の同規模・同業種の医療法人のサンプルをいくつか抽出し、役員報酬の平均値を算出して「これを超える部分は不相当に高額」と否認してくる場合があります。しかしこの平均値は、各法人の役員が実際にどれだけの仕事をしているかを反映していません。だからこそ、「うちの役員はこれだけの仕事をしている」と先回りして示すことが、唯一にして最大の防御になります。

最大の対策:税理士法33条の2の書面添付

高額役員報酬の否認に対する最大の対策は、申告書に税理士法第33条の2の書面添付を行い、その書面に役員の仕事内容を具体的に記載しておくことです。書面添付制度とは、税理士が「どの項目を、どんな資料で、どう検討したか」を申告書に添付して意見表明する制度で、添付された申告は、調査の前に税理士への意見聴取が行われる運用になっています。この書面に、家族役員の担当業務(経営参画・資金管理・労務・現場業務など)・従事の状況・報酬決定の根拠をあらかじめ記載しておけば、「平均値より高い」という機械的な指摘に対して、申告の段階から仕事内容の説明が公式記録として存在することになります。事後に慌てて説明するのと、申告書に最初から書いてあるのとでは、交渉の土俵がまったく違います。

調査が来ても困らない「家族給与の証拠ファイル」チェックリスト

  • 業務分掌表:担当業務を箇条書きで文書化(年1回更新)
  • 出勤簿・タイムカード:他のスタッフと同じ方法で記録(家族だけ手書きにしない)
  • 業務の痕跡:記帳データの入力者記録、シフト表の作成者、業者とのメール等、「実際にやっている」客観的な跡
  • 本人名義口座への毎月振込:現金手渡し・家計口座への振替は避ける
  • 給与水準の根拠メモ:求人相場の資料と「この業務なら第三者にいくら払うか」の計算過程
  • (個人)青色事業専従者給与の届出書控:金額・支給時期と実支給の一致を毎年確認
  • (法人)社員総会・理事会の議事録:役員報酬の決定手続と定期同額の維持
  • 税理士法33条の2の書面添付:申告書に書面を添付し、役員の仕事内容・報酬決定の根拠を記載しておく(高額役員報酬否認への最大の対策)
  • 源泉徴収・年末調整:家族分も他のスタッフと同様に正しく処理
よくある否認パターン:①海外赴任・遠方居住・学生など物理的に勤務できない家族への給与、②タイムカードも業務の痕跡もない「帳簿上だけの給与」、③利益が出た年だけ跳ね上がる賞与、④スタッフの2倍超なのに業務の差を説明できない給与。いずれも「実態」と「記録」があれば防げるものです。

先生のご家族の給与、「守れる金額」を一緒に決めませんか

湯沢会計事務所は医業経営支援30年超。ご家族の業務内容の棚卸しから、個人・法人/資格の有無に応じた妥当額の設計、専従者給与の届出・役員報酬の決定手続、世帯の手取りシミュレーションまで一貫してサポートします。当事務所は税理士法33条の2の書面添付に対応しており、家族役員の仕事内容を書面に記載した申告で、高額役員報酬の否認リスクに先回りして備えます。「今の金額が妥当か不安」という現状チェックだけのご相談も歓迎です。初回相談は無料です。

無料相談を申し込む