クリニックの開業資金は診療科目により4,000万円台から1億円超。その全額を借入でまかなえるのか、自己資金はいくら貯めてから動くべきなのか──開業を考え始めた先生が最初にぶつかる疑問です。このページでは、自己資金の意義から、目安、準備の仕方、預金以外の資産の扱い、融資審査への影響、足りない場合の対策、そして「自己資金ゼロ開業」の可否まで、医業専門30年超の湯沢会計事務所が率直にお答えします。
自己資金には、4つの役割があります。
実務上の目安は「開業資金総額の1〜2割」+「世帯の生活費6ヶ月分(別枠)」です。診療科目別の開業資金(当事務所の標準モデル・内装坪90万円で算定)に当てはめると次のようになります。
| 診療科目 | 開業資金の目安 | 自己資金の目安(1〜2割) |
|---|---|---|
| 皮膚科(20坪) | 4,200万円 | 420〜840万円 |
| 小児科(30坪) | 6,100万円 | 610〜1,220万円 |
| 耳鼻咽喉科(25坪) | 6,000万円 | 600〜1,200万円 |
| 歯科(25坪) | 6,500万円 | 650〜1,300万円 |
| 内科(35坪) | 7,100万円 | 710〜1,420万円 |
| 眼科(30坪) | 8,400万円 | 840〜1,680万円 |
| 整形外科(55坪) | 1億1,000万円 | 1,100〜2,200万円 |
融資審査では通帳の履歴(おおむね半年〜1年分)を確認されます。つまり自己資金づくりは、金額づくりであると同時に「履歴づくり」です。具体的には次の進め方が王道です。
認められます。自己資金として評価されるのは「返済義務がなく、開業資金に充てられることが客観的に確認できる資産」です。預金以外の主な資産の扱いを整理します。
| 資産の種類 | 自己資金としての扱い |
|---|---|
| 有価証券(株式・投資信託等) | 認められやすい。時価で評価され、原則として開業までに現金化することが前提 |
| 保険の解約返戻金 | 認められやすい。解約返戻金の証明資料を用意。実際に解約するかは保障とのバランスで判断 |
| 退職金 | 支給が確実なら評価対象。退職金規程・見込額の証明があると確実性が増す |
| 親族からの贈与 | 認められ得る。贈与契約書等で「返済不要のお金」であることを明確に。年間110万円超は贈与税の検討も必要 |
| 親族からの借入 | 自己資金にはならない(返済義務がある=負債)。ただし資金計画上の調達源としては申告したうえで活用可能 |
| 配偶者名義の預金 | 世帯資産として考慮され得る。配偶者の同意と資金の所在の明確化が前提 |
| 不動産 | 自己資金ではなく担保・資産背景としての評価。売却して現金化すれば自己資金になる |
| 出所を説明できない現金(タンス預金等) | 評価されにくい。履歴のないお金は「見せ金」と区別がつかないため、早めに口座に入れて履歴を作る |
クリニック開業の資金調達の中心である日本政策金融公庫の創業融資は、現在「新規開業・スタートアップ支援資金」に再編され、自己資金の形式的な要件は撤廃されています。融資限度額は無担保の場合3,000万円、有担保の場合7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。制度の入口は確かに広がりました。ただし、開業資金が5,000万円を超えることが多いクリニック開業では、無担保枠だけでは足りず、担保・保証の提供や、民間金融機関との協調融資を組み合わせる設計が前提になります。
しかし実務では、自己資金とその形成過程は今も審査の最重要項目のひとつです。自己資金が乏しい申込みは、希望額からの減額、据置期間や金利条件の悪化、追加資料の要求につながりやすく、民間金融機関との協調融資(公庫+地銀)を組む場合はなおさら自己資金比率が効いてきます。
全額借入(7,100万円)した場合の毎月返済は約64万円、自己資金1,400万円を入れて借入5,700万円に抑えた場合は約51万円(いずれも10年・元利均等・金利1.5%の概算)。毎月約13万円・年間約150万円の差です。これは損益分岐点を1日あたり患者1〜2人分押し下げる効果に相当し、立ち上がり期の資金繰りの余裕がまるで違ってきます。
自己資金が目安に届かない場合、取れる対策は「増やす」「減らす」「借り方を工夫する」の3方向です。
最も確実な対策です。その間に診療圏調査・物件探し・事業計画づくりを進めれば、待ち時間は無駄になりません。貯蓄の履歴そのものが審査上の資産になります。
居抜き物件の活用、坪数の見直し、医療機器の中古・リース活用、補助金の活用などで開業資金そのものを圧縮します。皮膚科モデル(4,200万円)と整形外科モデル(1.1億円)では必要な自己資金が2倍以上違うように、開業のかたちを変えることが最大の資金対策です。
既存クリニックを引き継ぐ承継開業は、内装・機器・患者基盤を引き継げるため、新規開業より初期投資を大きく抑えられるケースがあります。当事務所では新潟県内の承継案件のご相談もお受けしています。
親御さまからの支援は、贈与なら贈与契約書、借入なら金銭消費貸借契約書(返済条件つき)を作成し、資金の性格を明確にして活用します。曖昧なままの資金移動は、審査でも税務でも不利に働きます。
医療機器をリースにすれば開業時の調達額自体を減らせます。ただし総支払額は割高になり、毎月の固定費は増えるため、損益計画とセットでの設計が必要です。
結論から言えば、制度上の可能性はゼロではないが、原則としておすすめしません。
公庫の自己資金要件が形式上撤廃されたため、「自己資金なしでも申し込める」のは事実です。承継開業で初期投資が極端に小さいケースや、資産背景・勤務実績が極めて強いケースでは、自己資金ほぼゼロで開業に至る例も実際にあります。
しかし、自己資金ゼロの開業には3つの構造的な問題があります。第一に、審査のハードルが大きく上がること。「貯められなかった理由」は計画性への疑問として跳ね返ります。第二に、全額借入は毎月返済を最大化し、損益分岐点を引き上げること。立ち上がりが少しつまずくだけで資金繰りが赤信号になります。第三に、開業後の「想定外」に対する緩衝材が一切ないことです。
「フルローンで開業できます」と勧誘する業者には特に注意してください。開業させることがゴールの相手と、開業後10年の経営まで見る相手とでは、提案の中身が変わります。
自己資金ゼロでも道が完全に閉ざされているわけではありません。しかし王道は、開業資金の1〜2割+生活費6ヶ月分を作ってから動くこと。それが難しいなら、開業時期・開業規模・承継という選択肢の見直しから一緒に考えるのが、結局いちばんの近道です。
自己資金がいくらあれば、どの規模の開業が、いつ可能になるのか── 答えは先生ごとに違います。湯沢会計事務所は医業経営支援30年超の実績をもとに、現在の自己資金と貯蓄ペースから逆算した開業ロードマップの作成、事業計画書づくり、日本政策金融公庫・銀行への融資申込みの支援までを一貫してサポートします。「まだ貯め始めたばかり」という段階のご相談も歓迎です。初回相談は無料です。
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