医療法人化の7つの判断要素 > 判断要素01 税制メリットの実際
医療法人化の判断要素 01/07

税制メリットの実際 ──
効果は大きい。ただし「失うもの」もある

法人化の税効果は確かに存在します。しかしそれは「自動的に税金が減る」のではなく、所得の分散と繰延べの仕組みを正しく設計して初めて生まれるものです。効果とコストの両面を解説します。

メリット

法人化で生まれる税効果の正体

① 所得税と法人税の税率差

個人であれば、課税所得1,800万円超の所得に対して所得税+住民税で50%、課税所得4,000万円超では55%の税率で課税されます。一方、医療法人の場合には、法人に対する税率は課税所得800万円以下の部分に約17.6%、800万円超の部分に約27.2%と、個人の場合と比較して税率が低くなっています。従いまして、法人化はいかに法人に利益を出して低い税率を適用するかが鍵になります。

② 所得の分散

個人開業では診療所の利益すべてが院長個人の所得となり、超過累進税率(所得税・住民税あわせて最高55%水準)で課税されます。法人化すると、利益を「法人の所得」と「役員報酬」に分けることができ、さらに経営に従事するご家族への報酬で世帯内の分散も可能になります。中小法人の法人税率は年800万円以下の所得に対して軽減税率が適用され、個人の高い限界税率との差が税効果の源泉です。

③ 給与所得控除

院長が法人から受け取る役員報酬は給与所得となり、給与所得控除という概算経費が認められます。個人事業では存在しなかった控除が世帯全体で新たに生まれます。

④ 生命保険の活用

1. 全額が経費になる保険に加入することにより、実質的に少ない負担で大きな保障を得ることができます。

2. 貯蓄性のある生命保険に加入することにより、保険料を経費にしながら、簿外で将来の支出(退職金を含む)に備えた資産形成が可能です。

⑤ 退職金という「最後の出口」

法人は院長やご家族に退職金を支払うことができ、法人側では損金、受け取る側では退職所得控除と2分の1課税という大きな優遇があります。毎年の節税よりも、退職金まで含めた生涯トータルの税負担で考えることが本質です。

⑥ その他

欠損金の繰越期間が個人(3年)より長い10年であること、生命保険の活用余地が広がることなども法人のメリットです。

注意点

法人化で「失うもの」も正確に

概算経費の特例が使えなくなる場合

個人開業医には、社会保険診療報酬が一定額以下の場合に実際の経費より有利な概算経費率で所得計算できる特例(いわゆる措置法26条)があります。この特例の恩恵が大きい規模のクリニックでは、法人化でかえって税負担が増えることがあります

小規模企業共済・経費の制約

個人時代に積み立ててきた小規模企業共済は、法人成りに伴い取扱いの検討が必要です。また法人には交際費の損金算入限度があり、「法人にすれば何でも経費になる」は誤解です。

社会保険料という「もうひとつの税金」

法人化により厚生年金が強制適用となり、役員報酬と給与に対する社会保険料の事業主負担が発生します。税金の減少と社会保険料の増加は必ずセットで試算しなければ、手取りベースでは逆転することもあります(詳しくは判断要素03へ)。

当事務所の視点「課税所得がいくらを超えたら法人化が有利か」は、ご家族の関与・退職金の構想・社会保険の選択によって一件ごとに変わります。当事務所では、個人継続と法人化の10年累計手取り額を並べた比較表で判断していただいています。
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