スマートフォンやパソコンの画面越しに医師の診察を受けるオンライン診療は、コロナ禍を経て一般的な医療の選択肢になりました。そして2026年、医療法の改正によりオンライン診療は法律上の「診療」として正式に位置づけられ、ルールが大きく整備されています。このページでは、オンライン診療の基本的な仕組みから、クリニックでの実際の活用事例、診療科目別のヒント、市場規模、そして「オンライン診療を軸に開業できるのか」という疑問まで、医業専門30年超の湯沢会計事務所がわかりやすく解説します。
オンライン診療は、ビデオ通話などの情報通信機器を使って、医師と患者がリアルタイムでつながって行う診療です。流れは次の5ステップです。
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和8年4月改訂)は、オンライン診療を対面診療と適切に組み合わせて行うことを基本とし、急変時に対面につなげられる体制や、医師の研修受講、セキュリティの確保などを求めています。初診からのオンライン診療も「かかりつけの医師」が行うことが原則とされ、「すべてをオンラインだけで完結させる医療」は想定されていません。保険診療として行う場合は、施設基準の届出(地方厚生局)も必要です。
改正医療法により、①オンライン診療が医療法上の診療として定義され、②実施する医療機関は都道府県への届出が必要になり、③これまで通知レベルだった指針の内容が省令(オンライン診療基準)に引き上げられ、違反には都道府県知事等の是正命令等が可能になります。さらに、④患者が自宅以外で受診できる「オンライン診療受診施設」(公民館・デイサービス・駅・商業施設など)の枠組みも制度化されました。「とりあえず始める」段階から、「ルールに沿って正しく運用する」段階へ移行したということです。
高血圧・糖尿病・脂質異常症の患者は、状態が安定すると「忙しいから」と通院を中断しがちです。あるクリニックでは、状態の安定した再診患者に対面2回に1回はオンラインという通院パターンを提案。仕事を休めない50代の患者が昼休みに受診できるようになり、治療中断が減って定期通院患者の基盤が安定しました。クリニック側も、再診の一部がオンラインに移ることで待合室の混雑が緩和されています。
豪雪地帯や中山間地では、冬季の通院そのものが高齢患者の大きな負担です。訪問診療を行うクリニックが、訪問の合間の状態確認をオンラインで補完し、家族やデイサービス職員が接続をサポートする形で診療を継続。2026年に制度化された「オンライン診療受診施設」の枠組みにより、今後は公民館や通いの場などを受診拠点とする地域ぐるみの活用が広がると見込まれます。医師が不足する地域の医療体制を保つ手段として、国も活用を後押ししています。
院長一人のクリニックでは、学会出張や急用で休診にすると患者が離れてしまいます。非常勤医師や提携する勤務医がオンラインで再診をカバーする体制を作ったことで、休診リスクが減り、平日夜のオンライン枠が働く世代の新規患者獲得にもつながりました。オンライン診療は「新しい売上の柱」である以上に、限られた医師の時間を最大化する経営インフラとして機能します。
| 診療科目 | 相性のよい使い方 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 内科 | 生活習慣病の安定期再診、検査結果の説明、禁煙・睡眠などの継続フォロー | 初診・急性症状は対面が基本。検査が必要な患者の来院動線を確保 |
| 小児科 | 夜間・流行期の受診相談、皮膚症状や発達相談のフォロー、保護者の不安への対応 | 乳幼児は映像だけでの判断が難しく、対面への切替え基準を明確に |
| 皮膚科 | 慢性疾患(アトピー・ニキビ等)の再診、写真を併用した経過観察 | 画面の色味で皮疹の評価がぶれる。照明・撮影方法の患者案内が鍵 |
| 整形外科 | リハビリ継続中の経過確認、術後フォロー、運動指導の補完 | 触診・画像検査が中心の科目のため、適応は限定的と割り切る |
| 眼科 | 検査結果の説明、点眼治療継続中の問診フォロー | 視力・眼圧・眼底など検査依存度が高く、対面との組合せが前提 |
| 耳鼻咽喉科 | 花粉症の定期処方フォロー、舌下免疫療法・CPAPの継続管理 | 繁忙期の混雑緩和に有効だが、処置が必要な患者の見極めが重要 |
| 歯科 | 術後・矯正の経過確認、訪問歯科前のトリアージ、口腔ケア相談 | 処置中心の科目のため補助的活用が中心。歯科オンライン診療のルールを確認 |
民間調査会社の調査によると、国内のオンライン診療サービスの市場規模は2026年時点で約1,248億円(保険診療891億円・自由診療357億円)と推計されています。コロナ禍を契機に自由診療(オンライン完結型のサービス)が市場を先行して牽引してきましたが、今後は医療法改正による「オンライン診療受診施設」の制度化で、駅・商業施設・オフィス・公民館などでの受診が広がり、保険診療領域の利用拡大が見込まれています。
世界に目を向けると、オンライン診療(遠隔診察)市場は年率10%前後で成長を続ける拡大市場と各種レポートで予測されており、高齢化・医師の偏在・働き方改革という日本の構造的な課題を踏まえれば、国内でも「使われ続ける医療インフラ」として定着していく流れは固いと考えられます。
ただし冷静に見れば、外来医療全体の市場と比べればオンライン診療はまだ一部です。「オンラインだけで食べていく」のではなく、対面診療を核としてオンラインを組み込み、通院継続率と診療効率を高めるのが、現時点でもっとも現実的な経営戦略です。
「オンライン診療を活用したクリニックを持ちたい」と考えたとき、開設主体には3つの選択肢があります。どの形でも、診療所(拠点)の開設と管理者(院長)の配置、指針・基準の遵守が前提です。
| 項目 | 個人開業 | 医療法人 | 一般社団法人 |
|---|---|---|---|
| 設立・開設の手続 | 開設届等のみで最も簡素 | 都道府県の設立認可制(受付は年2回程度)。原則、個人開業を経てから法人化 | 法人設立は登記のみで可能。ただしクリニック開設には保健所・都道府県の非営利性審査があり、理由書等の説得力が鍵 |
| 勤務医を続けながらの経営 | 不可(開設者=管理者として常勤が原則) | 理事長は医師が原則で、勤務医との両立は困難な場合が多い | 勤務医が法人の代表理事となり、別の医師を管理者(院長)として雇用する形で関与する設計が可能 |
| 分院・多拠点展開 | 不可(1人1診療所) | 可能(定款変更認可が必要) | 可能(施設ごとに開設手続・非営利性の維持が必要) |
| 税制 | 累進課税。概算経費特例の余地 | 法人税率。持分なし・配当禁止 | 法人税率。非営利型の要件設計により課税範囲が変わる |
| 向いているケース | まず1院を自分で診る標準的な開業 | 規模拡大・承継・分院展開を見据えた本格経営 | 勤務医を続けながらの医院経営、医師でない家族・パートナーと組む事業設計、スピード重視の開設 |
オンライン診療を活用したクリニック開業は可能です。ただし、①拠点となる診療所と管理者の確保、②対面診療と組み合わせる診療体制、③省令化された基準・届出への対応、という3つの土台を満たす設計が不可欠です。そのうえで「誰が開設主体になるか」によって、勤務医との両立可否や将来の展開力が大きく変わります。特に一般社団法人を活用したスキームは、勤務医をしながら医院経営に関わりたい先生にとって有力な選択肢ですが、非営利性の審査を通す理由書の作成や運営設計には専門的なノウハウが必要です。
湯沢会計事務所は医業経営支援30年超。一般社団法人によるクリニック開設を解説した書籍の執筆実績を持つ所長が、オンライン診療を組み込んだ事業計画の作成、開設形態(個人・医療法人・一般社団法人)の比較シミュレーション、保健所・都道府県へ提出する理由書の作成支援、資金調達まで一貫してサポートします。勤務医を続けながらの開業のご相談も歓迎です。初回相談は無料です。
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